限定ランチのお楽しみ - たん清のタンシチュー

その日は突然やってくる。「ランチ営業やります」の掛け声と共に。

「たん清」は夜営業のお店。看板の牛たんをはじめ上質なお肉が各種取り揃えてある焼肉屋さん。

そんなお店が突発的に昼営業、意味するところはお客様感謝的な意味合いのサービスデイ。

 

あの界隈にあまり詳しくなかった折にこんな噂を耳にしたことがある。「月に数度しかお目にかかれないが、ものすごく旨いタンシチューがある。ただ旨いだけじゃない。とにかくタン…肉がでかいんだ。そして懐に優しい。」

 

そんな話を聞いたとあっては、居ても立ってもいられない。いったいそんなお店はどこにあるんだと探した結果たどり着いたのがこの「たん清」。いっぺん食べて噂に違わず、これまたいいものだとすっかりファンになり、以来数カ月に一度は訪れるという熱の上げっぷりなのだ。

 

そう、そして今日(10月4日)がランチ営業「タンシチューの日」。頃合いも良しと喜び勇んで少し早めに出発。かくして約束の看板は店の前に掲示されていた「タンシチュー ¥1000 (ライス・サラダ・おしんこ付)」─これがランチ営業のサイン。

いざ入店。タンシチューランチとのご対面。

あと少しで開店時間。期待に胸を膨らませた人々の列は店の角を曲がり裏路地の半ばほどまで。会話をしつつ待つことしばし、いよいよ入店。地下へと続く階段をそろそろと下り、入口側でおしぼりをピックアップ(ここだけセルフなのだ)。

 

案内された席について程なくご対面。眩いばかりにたゆたうシチューの海にうっそりと氷山のごとく頭角を現す肉(タン)。肉(タン)。肉(タン)。海面下に横たえるご本尊の大きさはいかにと助兵衛な食い意地を隠す気持ちは微塵もなく、なにはともあれ─「いただきます!!」

その浮上っぷり、レッド・オクトーバーの如し

シチューを啜る。肉に齧りつく。麦飯を口に運ぶ。3ステップの反復運動に意識を集中する。旨い、旨すぎる。ほろほろりと口の中で解け、甘みが鼻孔を擽り、ジューシィさがさらに食欲を加速する。思わず笑みが溢れる─「長靴いっぱい食べたいよ。」

 

永久機関もかくやの反復運動に戻ろうとしたその瞬間、はたと思い出す…「で、お肉はいったいどれほどの大きさの物なのかな」。匙を丼の底にぐいと差し入れ持ち上げる。重い。想像以上に重い。御簾の向こうに身を落ち着けるやんごとなきお方を取り扱うかのように恭しく。

 

ついに全容を現すその肉塊。気分はレッド・オクトーバーの浮上シーンだ。勢いあまって潜水艦がざばりと海上に顔を出すあの瞬間を思い浮かべながら─とても…大きいです…

 

そしてまたかぶりつく。食欲という名の機関車に乗って。どこまでも。どこまでも。

 

気がつけば器の中は静けさを取り返し、底にわずかに残滓を残すのみ。楚々と残りを押し頂いて宴は終幕を告げる─「ご馳走さまでした。有難う、そして、有難う。」

 

お勘定の1000円(なんというサービス価格なんだ!)をレジにて支払い、列を成す人々の脇を静かに通り抜ける。食の喜びに満ち足りて小躍りしたい気分をぐっと堪えつつ。

終幕。そしてまたいつの日か。

朝方のどんより立ち込めていた鉛のような雲はいつしか消え去り、抜けるように澄んだ秋の空、日差しが目に眩い。

 

店を背にして、高架下をくぐり、中央通りを目指す─天候の回復と共に賑わいを取り戻した街の人々の群れを構成する一つのオブジェクトとして身を沈め、なんとはなしに安堵感。

 

「それにしても、あの肉、大きかったよなぁ」

 

寄せては返す波濤の様にタンシチューを啜る記憶をリフレインしつつ、大通りの信号を渡り、贔屓の書店に向かいながら改めて─「また行こう。次か、また次の"タンシチューの日"に、きっと。(もちろん夜の焼肉も!)」

たん清

・千代田区神田練塀町45

・03-3258-8321

・17:30-23:00(LO21:45)

・(昼営業は不定期11:30より)

・[休]月・日・祝

・JR秋葉原駅(昭和通り口)から徒歩4分

 


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